Masuk
「暑い……暑すぎる」
七月ももう少しで終わり、遂に夏休みが始まる。
今日は一学期最後の登校日……つまりは終業式だ。「身だしなみは……っと、ネクタイ忘れるとこだった」
普段はネクタイをつけていなくても良いのだが、式典やそう言った行事の日はネクタイをつけないといけない。
そのことをすっかり忘れてしまいそうだった。「夏休みはほのかと遊びまくるんだ!」
高校一年生の頃にできた最愛の彼女との、甘酸っぱい夏休みに心を躍らせながら家を出る。
今日はいい一日になりそうだ。◇
「おう、おはよう湊《みなと》。今日も機嫌がよさそうだな」
「まあな。そういう隆介だって今日も元気じゃないか」
小清水《こしみず》 隆介《りゅうすけ》。
小学一年生の頃から一緒の学校に通っている親友。 髪型は坊主で身長は百七十五センチくらい。 野球部でピッチャーをしてる野球少年だ。「まあな! 今日から夏休みだし」
「野球部って夏休みに練習ないのか?」
「いや、一週間に一日にしか休みがない」
「かなりハードじゃないか!?」
夏休みに全く休みがないなんて。
高校生活としてはどうなんだと思わなくもないけど、高校球児的には充実した夏休みなのかもしれない。「ハードだけど、まあ好きだからな。野球は」
「そか。頑張れよ! 甲子園とか行ったら応援しに行くからな」
「任せとけよ! 絶対に甲子園行って見せるから。お前はほのかとデート三昧か?」
「予定ではな」
「羨ましいな彼女もちは」
隆介と他愛もない会話を繰り広げていたら、校門が見えてくる。
俺と隆介は別クラスだから、もう少しでお別れだ。「そんじゃ、湊は夏休み満喫しろよ!」
「ああ。隆介も野球頑張れよ!」
隆介と拳をぶつけて気合いを入れて、今日一日の終業式を乗り切ることにする。
正直ここまで来たら消化試合みたいなものだから、気楽に過ごそうと思う。◇
長い終業式も終わり、これでいよいよ夏休み。
学校終わりにほのかと待ち合わせてデートに行く予定だから、ほのかを待っていたんだけど三十分経っても中々来ない。「何かあったのかな」
スマホで連絡してみても、既読が付かない。
心配になって校内を探し回ってみるけど、なかなかに見つからない。 彼女の教室を見てみてもいないし、広い校舎を走り回ってもなかなか見つからないから不安になる。「どこ行ったんだ? 何かあったのかな」
凄く心配だし、早く見つけるか連絡を返してほしい。
そう思いながら、僕は学校中を歩き回ってほのかを探すけどなかなか見つからない。「はぁはぁはぁ、もう学校にいないのかな」
諦めかけながらも、体育館裏を見に行くとそこにはほのかがいた。
やっと見つかったという安堵感が全身を駆け回る。 よかった。事件とかに巻き込まれたわけじゃなくて。「ほの……か」
声をかけようとして、声が詰まった。
理由は簡単で、ほのかが体育館裏で知らない男とキスをしていた。 それも、熱烈に抱き合って。「な、なにしてるんだ?」
一瞬夢かとも思ったけど、それを膝から崩れ落ちた時の痛みが否定している。
これは夢じゃない。 まぎれもない現実なのだと、思い知らされる。「み、湊。これは……」
僕の彼女である金島《かなしま》ほのかは心底驚いたような顔を浮かべて僕の顔を見ていた。
流れるような黒髪におっとりとした翡翠色の瞳。 スラっとしたモデル体型に大きな胸。 そんな彼女が違う男とキスをしていたんだ。 しかも、すごく幸せそうな表情で。「え? あれ誰。ほのかの知り合い?」
「う、うん。私の彼氏」
「へぇ~こんなヒョロそうなやつがね。それで、そんな彼氏君が何の用?」
「何の用って、僕の彼女と何して……」
ほのかとキスをしていた男は何も悪びれたような様子は見せずに、僕を見下してくる。凄く嫌な奴だ。
「見てわかんない? キスしてたんだけど。あ、もしかして君はしたことが無い感じ?」
僕のことを挑発するように、男は言うけど、それどころじゃない。
気持ちが悪い、吐き気が止まらない。 ほのかが自分以外の男とキスをしているところを見て、目の前が真っ暗になるような気分だった。「ま、いいや。行こうぜほのか。こんな奴に構ってても良いことないだろ」
「うん。そういう事だから。じゃあね。湊」
ほのかと間男は手を繋いでその場を後にした。
僕は何もすることが出来ずに、その場に崩れ落ちることしかできなかった。 彼女と甘酸っぱい夏を過ごす予定だった、僕の夏休みはこの瞬間に絶望と地獄に変わった。◇
夏休みが始まったというのに、どこに行くこともなく起きて最低限の食事をとって。
また眠る。そんな灰色の夏を過ごしている。 ピコンとスマホの通知が来たので見てみれば、それはSNSのメッセージだった。「……なんだよこれ」
捨てアカウントだろうか。
意味の分からない英数字の羅列のアカウント名がメッセージを送ってきていた。 中身は正直見るに堪えないものだった。『浮気とか最低。死ねばいいのに』
『夏休みだし、死ねばいいんじゃない?』
『金島さんが可哀そう』
「なんだよ。これ」
なぜか、僕が浮気している風に広まっているらしい。
意味が分からないけど、どうせあの間男が広めたんだろう。 本当に嫌な奴だ。「僕が何したって言うんだ」
浮気されたのは僕のはずなのに。
どうして、僕が悪い風に言われないといけないんだ。 浮気されたショックも重なって、どんどん自分の心が荒んでいくのがわかる。「一人暮らしで良かったかもな」
こんな惨めな姿を両親に見せたくない。
両親は仕事で忙しいだろうし、隆介は部活できっと忙しいだろう。 あまり、迷惑はかけたくない。「はぁ」
スマホの電源を落として、適当に投げる。
見たくないものを見る必要もない。 これ以上見ていたら、泣いてしまいそうだ。「寝よ」
布団にくるまって、眠る。
嫌なことを忘れられるように。◇
「ああ、今日は登校日か」
死んだように寝て、適当に何か食べて、また眠る。
そんな生活を夏休みの間ずっとしていた。 スマホはあれ以降電源をつけていないから、どんな情報が広まっているかわからない。「行きたくないけど、行くしかないか」
鏡を見て、支度をしていると今にも死んでしまいそうな顔をした自分の顔が映っていた。ボサボサの黒い短髪に、夏休みが始まる前よりかなり濁って見える青い瞳。
「顔色悪いな」
自分でそう思えるくらいには酷い顔色をしていた。
学校に行ったら、もしかしたら何も起こっていないかもしれない。 そんな希望的観測を胸に、僕は学校に向かった。「……マジか」
学校に行ったら異物を見るような視線に晒され、僕の方を見てひそひそ話をされる。聞こえて来る情報的に、大体が僕が浮気したと断定して凄く悪口を言っている。
僕はそんなことしていないのに。 彼女と楽しい夏休みを過ごそうとするのは、そんなに傲慢な事だったのかな。 机の上には落書きがされていて、死ねとか浮気男とか、そんな暴言がたくさん書かれていた。「はぁ」
もう、ホームルームに出る気も無くなった僕は荷物を持ってその足で屋上に向かう。
屋上に出ると、ため息が出そうなくらいの快晴で自分の気分が下がっているのも相まってより一層気持ちが重くなる。「飛べば楽になる……か」
そんな思考が頭をよぎって、フェンスの方に歩き出す。
このフェンスを跨いで飛べば楽になる。 僕が死んで悲しむ人間の顔があまり思い浮かばない。 じゃあ、いいのか。「なにしてるの。湊くん」
僕がフェンスに手をかけながら考え事をしていると、鈴を転がしたような綺麗な声が聞こえてきた。
僕のことを名前で呼んで、こんな綺麗な声の人物は一人しか思い当たる人物がいない。「日向ちゃん」
望月《もちづき》 日向《ひなた》。
小さいころからの知り合いで、中学も同じでそれなりに交流があった女の子だ。 幼馴染と言っても、僕が高校に入学してからはそこまで交流がなかったわけだけども。「ちゃん付けはやめてよ。私も高校生なんだから」
「ごめんね」
「それより、こんなところで何してるの? 今、ホームルームの時間でしょ?」
長い黒髪に青いインナーカラーを入れた彼女は鋭い眼光で見つめてくる。
晴天の空のような瞳をした彼女は、ズカズカとこっちに向かってくる。 凄い気迫に気圧されてしまう。「いや……それは」
今、死のうとしてましただなんて、彼女に言えるはずもなく。
僕は口ごもってしまう。「やっぱり何かあったんだよね」
「……まあね」
こういうってことは、すでに僕に起きた出来事をある程度把握してるんだろうなぁ。
どうしよ。「とりあえず、こっち来て。そこ危ないから」
「わかったよ」
彼女に連れられるまま、僕は屋上の扉にもたれかかる。
どうやら、今日死ぬことはできなさそうだ。 燦々と輝いている太陽が、今は忌々しく感じた。「それで、何しようとしてたの」
「死のうと」
「……はぁ、バカなんだから。なんで私たちに相談しなかったの?」
「迷惑かと思って」
「そんなわけないでしょ! 私たちは勝手に死なれたほうが悲しいに決まってるじゃんか!」
隣で叫ばれて、ビクッとしてしまう。
だけど、隣に視線を向けてみると涙目になって僕の胸倉を掴む日向がいた。 ここまで悲しんでくれる人がいるとはあまり思っていなかった。「……ごめん」
「謝んなくていいから。それよりも、今日はうちに来て。というか、今から!」
「え、それはどうなんだ?」
「大丈夫。お姉ちゃんに連絡はしとくから」
日向の姉。望月《もちづき》 小雪《こゆき》さんは僕のクラスの担任だ。
あの人は昔から僕のことを弟みたいに扱ってくれている。 まあ、連絡を通してくれるんなら良いか。「わかった。じゃあ、今から行こうか」
「うん!」
こうして僕は日向の家に行くことになった。
さっきまで死のうとしてたのに、今ではこうして一つ下の幼馴染の家に行くことになっているのだから、人生とはわからないものである。あれからは特になんの事件も起こることなく、穏やかな日常が続いた。 学校ではそこそこ噂になったりしたけど、だからと言って特に面倒なことが起こるという事もなかった。 そして、気が付けば春休みに突入していた。 「いやぁ~私のピカピカ一年生生活も終わっちゃったよ」 「これからは日向も二年生だね」 「これからって言っても、春休み明けだけどね」 「もうすぐじゃないか」 春休みは高校の長期休暇に中でも一番短い。期間は二週間ちょっとくらいか。 「湊くんは入学式の挨拶とかで学校に行かないといけないんでしょ?」 「うん。生徒会長挨拶とかでね。春休みの後半になったら何回か学校に行かないといけなくなるし。ちょっと面倒だよ」 「それも生徒会長の仕事だから仕方ないね~」 あの一件以降は、僕のことを生徒会長として不適格と言うような人もかなり少なくなって悠々自適に生徒会活動を出来るようになった。 中には、僕のことを日向を命がけで助けた救世主なんていう人も現れるくらいで。 自分の評価が変わり続けていて、自分自身少し戸惑っていたりする。 「でも、一番の驚きは神凪さんとかじゃない?」 「……ああ」 神凪先輩と水無月先輩は僕の生徒会長としての仕事が見たいから。なんて理由でまさかの留年をしてしまったのだ。 行動力のベクトルがあまりにもイカレているけど、それはそれであの二人らしくていい。いわく、二人は庶務でいいからあと一年間よろしく頼むよ。とのことだった。 「でもさ、本当にこの半年いろんなことがあったよね」 「だね。日向と付き合う事になったり、生徒会長になったりと。いろんなことが起こりすぎて自分でも目が回りそうだよ」 「私もだよ。まさか、湊くんと付き合うようになるなんて思ってもいなかったから」 「そうなのか?」 日向が昔から僕のことを好きでいてくれたのは少し前に聞いたけど。 「だって、高校に入ったら湊くんに彼女がいたんだもん。遅かったって絶望してたんだよ?」 「それは……なんかごめん」 「湊くんが謝るような事じゃないよ。今はこうして付き合えてるから問題なし!」 「あはは。そっか」 ほのかはあの事件の後で、精神病院に送られたらしい。色んな精神鑑定を受けた結果、統合失調症と診断されて現在は入院中だ。 どうやら、周囲から向けられる視線や
「大変だったらしいな~湊」 「聞いたわよぉ~日向ちゃんを命がけで守ったそうね」 「まあね。それよりもなんでいきなり帰ってきたの?」 「そりゃあ、仕事が落ち着いたからな。年末だし」 「そうよ。仕事の方もひと段落したし」 クリスマスイブから時は流れ年末。 十二月三十日。 後一日で今年が終わるという日に二人は帰ってきた。 「お久しぶりです。海斗さん。美波さん」 「久しぶりだな日向ちゃん。俺達がいない間、湊の面倒を見てくれてありがとう」 「本当にね。かなり心配してたんだけど。こうして湊の元気そうな顔を見れるのはあなたのおかげよ」 「いえいえ。私の方が湊くんに助けられてますから」 日向は少し畏まった感じで父さんと母さんに挨拶をしていた。付き合っていることはあらかじめ伝えていたけどこんな反応をされるとは思っていなかった。 「ふふっ、ならいいけど。湊も日向ちゃんを悲しませるようなことはしちゃだめよ?」 「しないって。そんなことをするくらいなら死んだほうがマシだから」 「簡単に死のうとしないの。湊が死んじゃったら一番悲しむのは日向ちゃんなんだから」 「それは確かに。命は粗末に粗末にするもんじゃないな」 ◇ 年末に母さんたちが帰って来たことで、僕たちの怪我が治るまでが家事を担当してくれることになった。 正直ありがたい。 「なんだか申し訳ないね」 「まあ、気持ちはわかるけど僕たちは怪我をしてるし小雪さんは家事ができないし。しょうがないよ」 「早く怪我を治さないと! ねっ湊くん」 「うん。でも、無理はしちゃだめだよ? 日向が一番傷が深いんだから」 僕の傷と違って、日向の傷はかなり深い。それに加えてほのかから逃げ回っているからその分かなり悪化しているらしい。 完治まではあと最低でも一ヶ月はかかるそうだ。 「わかってる。でも、せっかくのクリスマスとか年末年始なのに何もできなくてごめんね」 「気にしなくていいよ。クリスマスや年末年始は今年が最後ってわけじゃないしさ。ちゃんと元気になって来年たくさんあそぼうよ」 「来年も一緒に居てくれるの?」 「もちろん。僕はもう日向と別れるつもりなんかまったくないからね。前も言ったけど、日向がいない生活はもう考えられないんだから」 「じゃ、約束だよ! 来年は二人でいっぱい遊ぶって」
クリスマスイブと言うのに、僕がやっていることは普段とあまり変わらない。変わったことと言えば、いつもは日向がしている家事を僕がやっているという事くらいか。 「悪いな湊。怪我をしてるのに家事をやらせてしまって」 「良いですよ。小雪さんが家事出来ないのは知ってますし」 「面目ない。いつかは覚えようと思っているんだけどな。中々時間が無くて」 「忙しいですもんね。全然気にしないでください。そこまで苦でもないので」 小雪さんが申し訳なさそうにしているのを見ながら、僕は皿洗いをしていた。 リビングのソファーで日向は座ってゆっくりしていた。 「ごめんね湊くん。本当は私がやるべきなのに」 「良いって。いつもやってもらってるし。日向が怪我をしてる時くらいは僕がやらないと」 申し訳なさそうにしている日向に笑みを向けて、僕は黙々と皿洗いを進める。 こういう単純作業はそこまで嫌いじゃない。 「ありがとね。湊くん」 「気にしないでくれ。日向は怪我が早く治るように安静にしてて」 「私の目の前であまりイチャイチャしないで欲しいんだが。まあ、いいか」 小雪さんはため息をついて、うなだれている。 大丈夫。きっと小雪さんにもいい人が見つかります。 「そう言えば、湊くんの元カノはどうなったの?」 「あれは、警察に連れて行かれたよ。流石にその後のことは分かっていないけど」 「そうなんですね。とりあえず、みんな無事でよかったじゃないですか」 「だな。あの状況で死人が出なかったのは驚きだ」 佐山も死んではいないらしいし、結果として今回の一件で死人は誰一人として出ていない。その事に感謝をしつつ。 ◇ 「ねぇ湊くん」 「どうした?」 「クリスマスプレゼントが欲しい!」 「それは良いけど、何が欲しいの?」 最近は忙しすぎて、クリスマスプレゼントを用意する時間が無かった。 でも、何か欲しいって言うなら少し遅くなっても贈りたい。 「えっとね。キスしてほしい……かな」 「……そんなのでいいのか?」 「そんなのって……酷いなぁ。クリスマスイブに恋人にキスしてほしいって言う気持ちがわかんないのかな」 「いや、わかるんだけど。もっとすごい物をねだられるのかなと思ってたから」 「そんなことしないよ。ほら、キスして? ん」 そう言って日向は目を
「いろいろ終わったね。お疲れ様。湊くん」 「お疲れ様日向」 家に帰った僕たちは日向の部屋で楽しく会話をしていた。 車いすでの移動はかなり不便そうだし、早く完治してほしいと思う。 「湊くん、その怪我大丈夫なの? その腕で私のこおお姫様抱っこしてくれてたけど」 「大丈夫大丈夫。日向が思っているほど深い傷ではないからさ」 「絶対うそでしょ。あんなに深々とナイフが刺さってたのに」 「大丈夫だって。日向を助けれたんだから、これくらいの怪我大したことないよ」 腕にナイフが刺さったくらいで、日向の命を救えるのなら安いものだ。腕が吹っ飛ばされたわけでもないし。 「あの時、湊くんが言ってくれた言葉って本当?」 「言ってた事って?」 「世界で一番大切ってやつ」 「ああ、もちろん本当だし本心だよ」 僕は日向のことが世界で一番大好きだし、大切だ。 それだけは、これから何があっても絶対に変わらないんだと思う。 「凄く嬉しかったよ。私のことを助けてくれるヒーローみたいで」 「そんな大層なもんじゃないけどね。めちゃくちゃボロボロにされたし」 目立った傷は腕の傷だけど、他にも体の至る所に大小さまざまな傷が出来てしまっている。 「それでも……だよ。私にとっては白馬の王子様みたいだった」 「日向にそう思われるのは嬉しいな。ありがとう」 「お礼を言われるような事でもないんだけど」 少し困ったような顔をしながら、日向は笑いかけてくれる。 この笑顔を見ることが出来るだけで、僕は凄く幸せを感じることが出来る。 日向が隣にいない世界なんて想像できないし、したくもない。 「生きててくれてありがとう。日向」 「こちらこそ。助けてくれて本当にありがとうね」 ◇ 「湊、ちょっといいか?」 「どうしたんですか? 小雪さん」 「いや、少し話したい事があってな。少し私の部屋に来てくれないか?」 「全然いいですけど」 クリスマスパーティーが終わり翌日。 世間ではクリスマスイブと呼ばれる日の朝に僕は小雪さんに部屋に呼び出されていた。 「まずは本当にありがとう。君がいなかったらひなちゃんは殺されていたかもしれない」 「気にしないでください。僕は僕がするべきことをしただけです」 「君らしい答えだが、気にしないのは無理だな。君は妹の命の恩人
パーティーの結果を見れば大成功だった。 僕と日向が運営に参加をしなくても、小雪さんが加わったことで円滑に運営をすることが出来ており、パーティーに参加してくれたみんなの顔も笑顔に満ちていた。 「大成功だな。おめでとう夜霧会長」 「神凪会長。ありがとうございます」 「やめてくれ。私はもう会長じゃない。普通に神凪でいいさ」 「そう……ですね。神凪先輩」 「それでいい。聞いた話によると大変だったそうじゃないか。大丈夫だったかい ?」 会場内で神凪先輩に話しかけられる。日向も会場内にはいるけど休憩中の小雪さんに車いすを押してもらっているので、今の僕は一人だった。 「大丈夫……とはお世辞にも言えませんね」 「だろうね。その両腕、痛むかい?」 「少しは。でも、日常生活に支障をきたすほどではないですし。ちゃんと動きますしね」 僕は神凪先輩に安心してもらえるように、腕をプラプラ振って見せる。ほんの少しだけ差し込むような痛みが走るけど、表情を取り繕う。 「名誉の負傷と言う奴だな。誇ると良いさ。君は幼馴染君にとっての英雄になれたのだから」 「僕のせいで今回の事件に巻き込んでしまったという面もありますから。素直に喜ぶ権利なんか僕にはないですよ」 「君は相変わらず物事を難しく考え過ぎる節があるな。もっと楽観的に生きると良い」 「難しいですね。今までこういう考え方で生きてきたので」 僕がもっと付き合う相手をしっかり選んでいたなら、日向に怖い思いをさせずに済んだのに。 いや、そうなってしまったら僕と日向が付き合うという未来もなかったのかもしれない。 「そうか。いや、そう言う返答も含めて君らしいと言えば君らしいな。時間を取らせてすまない。私はもう行くよ」 「そうですか。今日は来てくださってありがとうございました」 神凪先輩はニコニコしながら、水無月先輩を引き連れて会場を後にした。 なんだか、ここに来てようやく一息つけるようなそんな気がする。 「やっと、一休みできる」 「そうはいかないね。うちの妹が君をご指名だ。ここの運営は私たちに任せて今日はもう家に帰ると良い。正直疲れたろ?」 「そうですね。では、お言葉に甘えてそうさせてもらいます」 僕は小雪さんに一礼をして、今も忙しそうに作業をしている隆介と秋奈さんに声をかけてから、日向
「お前、大丈夫なのか? 今日くらいは休んでも誰も文句は言わないと思うんだけど」「大丈夫。せっかく生徒会のみんなで準備したんだから、台無しにしたくないし。傷はそこまで深いわけじゃないからさ」 翌日、僕は終業式を終えて生徒会室で今日の夜におこなわれるクリスマスパーティーの準備をするために集まっていた。「そんな怪我したなら本当に休んでいていいんですよ? パーティーの運営位なら私と隆介先輩で大丈夫ですし」「そう言うわけにはいかないよ。僕も今日まで準備してきたんだし最高の形で成功させたいって思ってるから」「私もそう思ってるから、二人ともそこまで気にしなくてもいいよ。私も湊くんも見た目よりはボロボロじゃないから」「いや、日向さんはそもそも車いすだし。湊に至っては腕を包帯でぐるぐる巻きにされてるし」 ジト目で隆介に見られる。確かに、今の僕たちの状態はお世辞にも健康体とは言えなかった。 僕の両手はあまり使えないし、日向に至っては車いすがないと移動できないほどにボロボロにされていた。「ぐぬぬ」「そう言われると、私達も何も言い返せないかも」「夜霧先輩と日向さんはゆっくりパーティーを楽しんでください。私達でちゃんと運営しますから二人は会場で楽しんでいてくださいよ」 秋奈さんが僕たちに気を使って微笑みかけてくれる。 きっと、これ以上僕たちは何かを言っても運営に携わる事は不可能だろう。 ならば、二人の言葉に甘えて僕たちはパーティーを楽しんだ方が良いのかもしれない。「二人の言う通りだぞ。怪我人はおとなしくパーティーを楽しめばいい。今日のパーティーは私が二人の協力に当たるから」「小雪さん……いいんですか?」「当たり前だ。妹を助けてくれた命の恩人なわけだしな。と言うわけで二人とも。今日は二人の代わりに私が協力するからよろしく頼むぞ」「はい。お願いします望月先生」「お願いいたします」 生徒会室に入ってきていきなりそう言う小雪さんに隆介と秋奈さんの二人が揃って頭を下げる。 どうやら、僕と日向は確実にパーティー参加はするけど運営側に回ることはできないようだった。「そう言うわけで二人とも。今日は大人しくパーティーに参加だけすること。運営は私たちに任せてくれていいからゆっくりしろ」「だって。湊くん。どうする?」「ここまで言われたらそうするしかないだろ? あり







